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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)1039号 判決 1954年2月12日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士大橋茹の上告理由は別紙記載のとおりである。

論旨は、原判決が「石本吉右エ門」「石田吉右エ門」と記載された投票を訴外候補者石本林に対する有効投票としたのは違法であるというのである。

石本吉右エ門が候補者石本林の父で現存していることは原判決の確定するところであるが、さらに原判決の認定するところによれば吉右エ門の名は石本家の当主の名として代々襲名されて来たものであり、父吉右エ門は老令病弱のため永年社会的活動を行わず、林は石本吉右エ門の名で荒谷区長及び荒谷農家組合長の職務を行つており、戸籍上の名称にかかわらず、石本吉右エ門の名は、実際上石本家の当主である候補者石本林を指称するものとして取り扱われて来、荒谷部落区長の選挙では「吉右エ門」と記載した投票も林に対する投票として取り扱つていたというのである。その他原判決の認定する各般の事実に基けば、原判決が、吉右エ門を林の通称と認定したのは妥当であつて、従つて「石本吉右エ門」と記載した投票を候補者石本林に対する有効投票としたのは違法ではない。しからば「石田吉右エ門」と記載した投票を「石本吉右エ門」の誤記と認めた上、これを有効投票とすべきことも原判決の判示するとおりである。上告人の主張する諸般の事実は、投票の効力に関する右認定の妨げとなるものではない。論旨は、原判決は、当裁判所昭和二五年七月六日の判決(民事判例集四巻七号二六七頁)に反すると主張するけれども、右の判決は、候補者の通称と認めるべき特段の事情のない場合の判決であつて、本件の適切な先例ということはできない。

論旨はまた、上告人は憲法三二条による裁判を受ける権利を奪われたと主張するけれども、原審の事実認定を非難するものであつて憲法違反に名を籍りるに過ぎない。

以上説明のほか、論旨は、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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